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「読まなくてもいい本」の読書案内

 

「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する (単行本)

「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する (単行本)

 

 

 

世界名文学100選や教科書に載っているような小説でも読んでみたらあんまり面白くなかったです、というのはよくある話である。小説に限らず、古典に敢えて傾倒する人は純粋な面白さというよりも歴史的な価値やなんとなくイケてるという心理から古典を手に取るケースが多いのではないかと思う。僕は高校時代頑張って読んだダンテの「神曲」がまったく面白くなくて挫折した苦い思い出があります。

 

いかに優れた書き手でも、文学のテーマと人生の時間が有限である以上、作品は世に出した瞬間から消費され模倣され、ジェネリックにシェアを奪われる先発医薬品のように価値の希薄化から逃れることはできない。本書はその「時の淘汰」を逆手にとって、じゃあ今読む必要がない本って何なのよ、という問いかけに答える形で進んでいく。

 

もっとも小説ではなく哲学などの学術分野がメインテーマである。小説よりも線形上に発展していく分野ということで読者の解釈というブレがなく筋をしっかり通している。また、本書は現在の最新理論で旧理論を再解釈するチートプレイであるともいえるため、見ていてすがすがしい(デリダドゥルーズなどのポストモダン哲学徒をカオス理論で再解釈した第一章「複雑系」が白眉)。ゲーム理論行動経済学など橘玲のおなじみシリーズもあるが、古典との対比というフィールドで論じられたのは少ないのではないかと思う。

 

本書は、全体を通して無駄を切り捨てる覚悟というか、論理があれば古典なんて読まなくてもいいよね、という赦しをあたえる良書であるといえる。もっとも「読まなくてもいい本」をあげつらう内容でありながら結びに参考図書をあげまくって読書意欲をあおるというトラップが仕込まれているため、一筋縄ではいかないが。