FACTORY TRASH

むかしのもの http://aegis15.blog129.fc2.com/

コーヒーもう一杯

 

コーヒーもう一杯

コーヒーもう一杯

 

 

 

大学生の時の話だが、僕は村上龍が好きだった。革命派の生態系をグロテスクに描き切り、主人公が社会基盤を鮮やかに切り崩す姿を描いた小説は刺激的で、大学生のころの謎の全能感と相まってどっぷりはまっていた。一方でミステリーやこの手のホンワカ小説はほとんど読んでいなかった。革命派の破天荒さとは無縁の、例えば陰陽師が活躍する京極堂シリーズなどはむしろ退屈そうで敬遠していた。長いし。

 

しかしなんとか就職して定められたレールをメンテナンスするような仕事に就くと、重松清村上春樹のような、当時退屈で空疎に思えた、日常をメンテナンスしていくような小説がいとおしく思えてきた。

 

本書は、200ページちょっとで終わる短編小説だ。

若者特有の強さと脆さを兼ね備えた大学生の主人公が197ページほどかけて人生の厳しさ、というか寂しさを突き付けられる。それでもラストの3ページで、その思い出を振り返るサイドに立った壮年の主人公がそれまでの全ての価値観、人生観を込めて、自身に覆いかぶさる思い出に彼なりの答えを叩きつける。Kindleでは108円で買えるので、この書評を読むよりぜひ購入して読んでほしい。1時間弱ぐらいで読めるので眠れない夜のお供にお勧め。

 

本書は、僕のような大学生あがりファッション社会人へのソウルジェムのメンテナンス小説であり、思い出に対するほろ苦い決別の一撃であった。書評を再開しようと思ったとき、真っ先に書こうと思ったのもこの本だ。